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日記

20代OLの日記 のん子と申します

ピカチュウ vs 伝説のポケモン ホウオウ②

上野を歩いていると思い出してしまう。たった数時間一緒にいて街を歩いただけなのに、いつまでも色褪せることなく昨日のことのように記憶に残ってしまう。何年経ってもそれは変わらない。

あの時、私がもう少しレベルが高ければ、でんこうせっか以外に10まんボルトとかかみなりとかみずタイプとひこうタイプを一発で仕留めることが出来る技を持っていたら、結果は変わっていただろうか。その答えは多分NOだと思う。結果は変わらない。

心と環境のミスマッチはどうあがいても変えることはできない。

私と入江君、ピカチュウ vs 伝説のポケモン ホウオウの後編を書こうと思う。

 

前回、はじめての二人きりで行ったご飯から一か月近く経ったある日、私は上野駅の銀座線付近をうろついていた。そう、今日は入江君と二回目のデート(私はデートだと思ってるけどきっと入江君は思ってなかったと思う)上野駅で待ち合わせをしていたものの、前回と同様に姿が見えない。すると一通のメールが、どうやら彼は銀座線で来ているらしい。私は地下鉄に向かい彼を探す。前方から早歩きで向かって来る人物が目に入り、自分でも胸が高鳴るのが分かった。

「ごめん、待った?」

いえ、全然待ってません。そう言いながら私は彼の格好をまじまじと見てしまった。前回のスマートなスーツ姿から一変し、スウェットタイプのグレーパーカー(私はパーカーが似合う人が大好物)に紺のサルエルパンツ、靴はスニーカーに鞄はリュック。シンプルでスケボー持ってそうなくらいスポーティーなのにそれがすごい様になっているのだ。要約すると“今すぐ抱いて”

待ち合わせをしたのが確か14時くらい、雨が降り出しそうな中、私達が向かったのはカラオケだった。あらかじめ予約をしていたのですんなり店に入ることができた。その時まだ純粋だった私はカラオケという密室に入った瞬間、二人きりという緊張感より(やべ、これ一曲目外したら終わりだ、どうしよう、でも最初って声でないじゃん?)と変な焦りを見せていた。今の私だったら彼の隣に座りどうやってボディタッチするかで頭がいっぱいになるだろう。

案の定、何にも考えてない、何を歌うか迷っていることに必死な私はL字ソファの画面真ん前を陣取りし入江君との距離を全く考えていなかった。部屋がそれなりに狭かったからどこに座っても距離は近かったのがせめてもの救いだ。

 

「俺、女の子と二人きりで行ったことないんだ。しかもカラオケって1時間くらいしか歌ったことない」

 

ええええと思いながら、当時フリータイムで7時間は平気で歌っていた私にとって衝撃だった。しかも彼はシラフでカラオケに行ったことがないらしく、真っ先に酒を頼んでいた。(もちろん私はシラフ)

私は無難にホワイトベリーの夏祭りからAKBだのランキングに入っている曲で入江君も知ってそうな曲をチョイスして入れていった(本当はブルーハーツサンボマスターとか、歌いたい)彼はというと……むちゃくちゃ歌が上手い。なんなの?神はいくつ彼に物を与えてんの?彼の前世はどのくらい徳を積んだの?彼が歌った曲といえばONE OK ROCKの完全感覚ドリーマー(この時初めてワンオクを知ったし、以後この曲にハマった)、大塚愛(女声が震えるくらい上手)、バンド系、もうなんか全部上手すぎて耳が犯されましたな。

なんだかんだで2時間後、彼の様子がおかしい……しきりに目をこすっている。なんだこれ、赤ちゃん?天使?

「ど、どうしたんですか?」
「緊張して……お酒一気に飲んで歌ったから……眠くなっちゃった」

かわいいいいいいいいii!私の母性本能に火がついてしまった。顔が溶けてたと思う。

「え、あ、ちょ、ちょっと寝ますか?」
「うん。あ、でも歌ってて全然いいからね」
と彼は横になって眠ってしまった。私はその間も平然を装い歌い続ける……が、眠る彼が気になってチラ見。

なんだこの彫刻はあああああ!目を閉じると岡田将生に見える、というのも彼は私より肌が白くしかも雪国で育ったのかと思うくらいむちゃくちゃ肌が綺麗なのだ。そして鼻筋が通っているので彫刻に見える。ふんわりとした黒髪がまるで天使!もはや天使にしか見えなかった。寝顔があまりにも美しすぎて、授業中携帯をいじりまくっていたテクニックを駆使してこっそり写メを撮ろうかと思ったけど、それはさすがに人としてダメだろと思い止めた私えらいぞ。

カラオケを4時間したあと、ご飯はどうしようかーと話ながら焼き鳥屋へ。上野は居酒屋がいっぱいあるもののそれなりに混んでて、なかなか良い店に巡り合えなかったから避難するようにその店に入った。お腹が空いていた私はメニューを見て何を頼もうか考えていた……が、また入江君の様子がおかしい。

「体調悪くなりました?」
「あ、ううん。ちょっと眠くなっちゃって……」
そう、彼は昨晩会社の飲み会が遅くまであったのにも関わらず私の強制的カラオケに参加した為、かなり疲労困憊していた。疲労というより目がとろん、となっていてすごく眠そうだった。というか目がとろん、ってそれだけでエロかった。

「じゃあ、今日はもう帰りましょう!」
「え?!ダメだよ。のん子ちゃんお腹空いてるでしょ?それにまだ時間も早いし」
「私は大丈夫です!カラオケすごく楽しかったですし……むしろ疲れている中、付きあわせちゃってすみません」

店を出て駅に向かう中、入江君の足取りがやばい、地面から足が浮いてる。私は自分が道路側になり彼が道にはみ出ないようにした。ふらついた時は腕を支え大丈夫ですか?と心配した(ここでさりげなくボディタッチ)そして、JR前の十字路の交差点でまた入江君の様子がおかしくなった。

「ない……携帯がない。あれ?」
「鳴らしてみましょうか?」
携帯を鳴らしても気配がない。マナーモードにもしていなかったらしく音で気づかないらしい。寝起きのような顔でどうしよう、という彼に一旦来た道を戻り店にも行ってみようと提案した。戻る途中で彼は鞄か服の内ポケットかに入っていた携帯を見つけた。

「ごめん、本当にごめん。ごめんね……」
眠いんだが今にも泣きそうな顔でひたすら謝って来る彼に、“今すぐお持ち帰りしてやろうか”と言うのを我慢して「大丈夫ですよ!駅行きましょう!」と言った。さらに彼は
「駅まで、銀座線って、」とあきらかに地下鉄までの行き方が分かっていなかった。

「大丈夫ですよ。改札前まで送ります!」
「でものん子ちゃん京成?JRだよね?」
「近いんで大丈夫ですよ。それに心配だし」

銀座線改札前まで送る私、彼は目の前で両手を合わせ「本当にごめん、ごめんね」と言い改札を通った。私は友人達と別れる際は姿が見えなくなるまで見送る人なので、彼の姿が見えなくなるまで待っていようと立っていた。すると彼は少し歩いた先で後ろを振り返り両手でしっかりと手を振ってくれた。私もまた振り返す、この瞬間だけ疑似カップルだ。

来た道を戻る途中、私はその時思った。これ男女逆じゃね?なんで私彼氏役してんだ?
ただ、彼があまりにも可愛らしかったのでこれはこれで良かったかもしれないと、今日という日をにやにやしながら振り返っていた。


しかし、入江君と会ったのはこれで最後だった。

何日か後に連絡をし、また会う約束をしようとしたものの、彼が風邪を引いてしまい約束は曖昧になってしまった。そして、私の転職祝いをしようと会う日を決めたものの私が体調を崩してしまいなくなってしまった。最後に私から連絡したものの、返事が来なくなりそのまま携帯を変え連絡先を消してしまった。

私は片思いと仕事を両立できない人間で、転職したばかりでなおかつ台風で家が流されてしまった為、入江君とも疎遠になってしまったのだ。互いの温度差はもちろん、私は入江君に興味をもたれていないことも痛感していた。その頃の私は諦めの良さを自分の長所にしていた。

仕事にも慣れ、飲み会にも参加し、ごく数回ではあるものの男性と二人でどこかへ行っても入江君のことを忘れることができなかった。4年近く経った今でも覚えているくらいだから。

それを一緒に街コンへ行った友人に話したら、
「私、まだ連絡先知ってるから連絡してみなよ!」
と言ってくれた。彼女は私を伝説のポケモンに挑むピカチュウだと言ってくれた。入江君と2回もデートが出来たのも彼女が背中を押してくれたからだ。その時、女6人で伊豆旅行へ行っていたが、皆がいるからこそ勇気を出せた私は入江君に1年ぶりとなる戦いを挑んだ。

 

“私のこと、覚えてますか?”

 

この先のことは書かない。ただ、この戦いはもうずっと前に完結した。LINEの“もしかして知り合いかも?”に入江君の名前が出て来ても友達登録はしない。

思い出は綺麗なままがいい。

 

20代も残りわずか、私はあと何回恋ができるだろう。相手からの連絡を待ちわびて携帯を握り締める日々がいつか来ることを願う。